[ガブたまねぎの目に沁みたい話]
普段はみんなと暢気に遊んでいるけど、一人ぼっちの夜なんかには、やっぱり考えてしまう。 どんな生活をしていたんだろう。どんな人間だったんだろう。 わたしには、島に来る前の記憶がないのです。
思いだせる最後の記憶はたぶん、あの嵐の中を小船で漂っていた時のことだと思う。人生で一番最悪な日だった。 冷たいゆりかごは牙をむいて、わたしを永遠の眠りの中へ突き落とした。 はっきりと覚えている。感覚が先に徐々に死んでいった。わたしは、海の中へと溶けていった。 きっと、昔の記憶もそのとき一緒に溶けたんだと思う。
次に目を覚ましたとき、わたしは砂浜の上にいた。 「ここはどこだろう? 天国かな?」 そう思ってキョロキョロしていた私を呼び止めた人物は、こう言った。 「…新しく生まれ変わった気分は、どう?」って。 やっぱり私は一度死んでいるみたいだった。でも、この人達が私を甦らせたらしい。 よく考えるととんでもない話だけど、そのときの私は混乱していたのか、とりあえずそういうものなんだと納得しておいた。
暫く経つと、島の生活にも慣れてきた。 島のものはなんでも新鮮で、楽しくて、そのときは昔のことなんかに構うことも忘れてた。 でもある日、衝撃的なものと出会った。
ホムンクルス。 彼らは人の手によって造られた「人工物」で、意思を持つものもいたり、はたまた魂を持たない「人形」のようなものも存在するらしい。 そしてなにより、姿形がわたしとそっくり!! まったく同じ種族なのだ。 しかもこの島では、この「人形」に自分の魂を移して、肉体を取り替えることも自由自在というじゃないか。
…あの時の言葉を思い出す。 「…新しく生まれ変わった気分は、どう?」 そんな! 今のわたしは、昔のわたしとは別人なのかもしれない!!
つづく