[ウィッチブレードのひとりごと]
もう、お昼近くになるというのに、私はベッドの上でゴロゴロしていた。 何もする気が起きない。 二日前、尾行に失敗してからずっとこんな感じなのだった。 やっとつかんだチャンスだったのに・・・。 彼女の家をつきとめる前に尾行をまかれてしまった。 さすがはアルケィナのエージェントということだろうか。 彼女のことを少し甘く見ていたかもしれない。
私はおとといのことを思い出してみる- 彼女はビクトリアス広場とラスレオ大聖堂を何度か往復したあと、 テオ・サート広場に向かった。 その間、彼女がこちらに気がついた様子はなかった(と思う)。 そこまではうまく尾行できていたはずだ(と思う)。
テオ・サート広場に入った彼女は、屋台の前で動かなくなった。 屋台では串にさした蛇を焼いている。。 彼女はその様子を言葉も発せずじっと眺めている。 私は別の屋台の陰に隠れ、その様子を見守っていた。 周りの屋台や露店からいい匂いがただよってくる。
突然、私のおなかがグーーーと音を立てた。 その音は広場中に聞こえたのではないかと思えるような大きな音だった。 近くのお姉さんがこちらを見てあははと笑った。 考えてみれば、私は食べ物を買おうと思って家を出てきたのだった。 そう思ったとたん、目の前の屋台や露店に並べられている食べ物が目に入ってきた。
隣の露店にはソーセージやメンチカツが並べられている。 目の前の屋台では、ホタテとタコを焼いている。 ホタテはすでに口を開いて、ジクジクという音とともに身から汁を出している。 そこにお醤油がかけられ、お醤油がこげる香ばしい匂いがただよってきた。 口の中にあふれてくるつばをゴクリと飲み込む。 私はホタテ焼きから目が離せなくなった。
しばらくすると、ホタテ焼きはトングに挟まれ、アミの上から皿に移された。 私が思わず手を伸ばすと、私のホタテ焼きは隣のお姉さんに渡されてしまった。 そこで弾かれるように我に返ると、私は辺りを見回した。 もう、彼女の姿は消えていた。