[ガブたまねぎの目に沁みたい話]
物思いに足を止めていると凍りそうだ。とにかく走り始める。 調べてきた情報によれば、イーゴの研究所は北にある。 あの柱も建物の一部なのだろうか?
暫く走ると、一人の女性が立っていた。 どうやら彼女の奥にある魔法陣から、イーゴの研究所に飛べるようだ。 わたしはどうして、こんな寒い中で一人立っているのか尋ねた。
『イーゴの狂気が、天空に満ちています…』
彼女は天空の研究所、「浮遊都市バハ」から脱走してきたのだと言った。 バハではイーゴによって人の命を弄ぶような研究が行われ、たくさんの人たちがその命を散らしたという。 反乱も失敗に終わり、逃げ出せたのは、どうやら彼女だけのようだった。
彼女は名前を持っていなかった。いやあることはあったのだけども、それは到底名前と呼べるような物ではなかった。 0005番。それが彼女の代名詞だった。まるで刑務所だ。いや、それよりももっと酷い場所なのだろう。
『そこにある、サークルの中心へ進めば 浮遊都市 バハ へ招待されますよ…』
怖くなかった、といえば嘘になる。全身を支配する震えは、寒さが原因のものではなかっただろう。 しかしもう後戻りはできない。 わたしは勇気を奮い立たせて、イーゴの『楽園』へと足を踏み入れた。
つづく