[ウィッチブレードのひとりごと]
私が投げたイクシオン・ステーキは弧を描いて飛んでいき、うまい具合にタルタロッサのすぐわきの床に弾んで動かなくなった。 最初タルタロッサはこちらに背を向けていて、ステーキに気がつかないようだった。 でも、しばらくして気がつくと、ゆっくりとステーキに近づき拾い上げた。 タルタロッサは手にしたステーキをじっと見つめたあと、あたりを見回しなかなか食べようとしない。 私は物陰に身を隠しながら、じれったい思いでその様子を見ていた。
どうして食べてくれないのかな? タルタロッサは焼いたお肉は食べないのだろうか? いや。 そもそも、タルタロッサはイクシオンを普段どうやって食べているのだろう? 調理をして食べているのかな? それとも生のまま、頭からバリバリ食べているのだろうか? そういえばタルタロッサの中にはフグの身を持ち歩いているものがいる。 これはタルタロッサが生で魚やイクシオンを食べている証拠なのかもしれない。
それとも、毒でも入っていると疑っているのだろうか? お腹をすかせた犬や猫なら、何も警戒せずに食べてしまいそうだけど。 タルタロッサは警戒するだけの知能があるということなのかな? でも、フグの身をそのまま食べているんだから毒に耐性でもありそうだけど。
それにしたってあんなに痩せてお腹もすいてるんだろうから、好き嫌い言わずに焼いたお肉でも何でも食べればいいじゃないか。 なかなかステーキを食べようとしないタルタロッサに、私は段々腹が立ってきた。
そのとき私はもう一つの可能性に気がついた。 このタルタロッサには、まだイクシオンを食べる習性が無いのかもしれない。 私はイクシオン・ステーキを食べているけど、狩りのときに薬のように使うだけで、食事として食べているわけじゃない。 普通の人はイクシオンのお肉を食べたことすら無いと思う。 つまり、タルタロッサが人から変化したとすれば、その途中でイクシオンを食べる習性を身につけたはずなんだ。 このタルタロッサはイクシオンのお肉を食べない。 このことは、普通のタルタロッサに比べこのタルタロッサがより人に近い存在だという証拠なのではないだろうか? タルタロッサがイクシオンを食べるという習性は、比較的最近身に付けたものなのかもしれない。
私が目にしているタルタロッサが、人とタルタロッサの中間的な生き物であることは、もう疑いが無いように思えた。 私はタルタロッサの様子をより詳しく観察するために、さらに近づくことにした。