[ウィッチブレードのひとりごと]
メモを取るのに夢中で、タルーマンが近づくのに気がつかなかったらしい。 敵が近づくのに気がつかないとはレンジャー失格だ。 私が呆然としていると、タルーマンが再び声をかけてきた。 「こ”ん”に”ち”は”」 発音があまり明瞭でないし何かくぐもったような声なのは、おそらく発声機能が退化しているからだろう。 でも、明らかに共通語を話している。 退化しているとはいえ、発声機能が残っていることに私は驚いた。
それにこちらを攻撃してこない。 どうやら友好的みたいだ。 私は気を取り直すと、タルーマンに挨拶を返した。 「こんにちはー」 私はタルタロッサと言葉を交わしていることに感動した。 これは後世まで語り継がれるような出来事ではないだろうか?
「いくしおん、ちゃんと、たべる。」 私はタルーマンが左手に持っているイクシオン・ステーキを指差し、それを食べる仕草をしてみせた。 タルーマンは首を振り何かをしゃべったが、よく聞き取れない。 近くで水音がしているせいか、タルーマンの発声機能が退化しているせいか、たぶんその両方だろう。
イクシオン・ステーキを食べようとしないタルーマンを見て私は考えた。 やっぱり生のお肉のほうが好きなのだろうか? そういえば現在のタルタロッサ・パレスには生産設備は無かったはずだ。 War Ageのパレスには新しく生産設備が設置されているが、タルタロッサはおらずかわりに商人が数人滞在している。 War Ageのパレスは、タルタロッサではなく人の活動拠点になっているのだ。 タルタロッサがいなくなり人が住むようになって初めて生産設備が設置されたということは、やっぱりタルタロッサは生産活動をしないということではないだろうか? タルタロッサがイクシオンを調理しているとは考えにくいかもしれない。
タルーマンが本当にイクシオンを食べないのかどうか、やっぱり生のお肉で試す必要がありそうだ。 そう考えた私は、家に生肉の在庫があったかどうか思い出そうとしたが、家にあるお肉は全て焼いてしまったような気がする。 イクシオンの肉は足がはやいので、取ってきたら早めに調理しないとすぐ痛んでしまうのだ。 でも、知り合いに声をかければ、少しくらいなら持っている人がいるかもしれない。
他にも色々持ってきたいものもあるし、私は一旦街に戻ることにした。