[ウィッチブレードのひとりごと]
お肉を持ってくるからここで待っているように言い、私はタルーマンに手を振った。 別れ際、タルーマンが何か言っていたが、よく聞き取れなかった。 「たかびし」とか何とか言っているようにも聞こえたが、どういう意味だろう? タルタロッサの言葉で「さようなら」とか「ありがとう」という意味だろうか? 共通語を話すといっても、タルタロッサ独特の方言があるのかもしれない。 調べなければいけないことがたくさんありそうだ。 私はそんなことを考えながら帰り道を急いだ。
家に帰る途中で知り合いに声をかけたら、幸いイクシオンのお肉とフグの身は在庫があるというので、ゆずってもらう事にした。 ありがたいことに、彼女はタルーマンの生け捕りにも協力を申し出てくれた。 全部で4~5人もいれば、簡単に生け捕ることができるだろう。 甘えついでに、人を2~3人集めてくれるようにお願いして、私は帰宅した。
もちろん自分の準備をしなくちゃいけない。 麻酔ボルトは持てるだけ持っていく。 餌に痺れ薬を入れることも考えたが、餌は食べてくれるかどうか分からないから、麻酔ボルトのほうが確実だ。 タルーマンを入れて運ぶのに、できればケージを用意したかったが間に合いそうも無い。 仕方が無いのでロープを持っていくことにする。 途中で麻酔が切れて暴れられたらやっかいだから、これで縛って運ぶしかないだろう。 私は手早く準備を整えると、知り合いのところに戻った。
彼女が人を集めている間に私はこれを書いている。 人が集まり次第、急いで地下水路に引き返すつもりだ。 できるだけ早くタルーマンを保護したい。 貴重な大発見を危ない地下水路に長いこと置いておくわけにはいかない。
問題は、街に持ち帰ったタルーマンをどこに置いておくかだけど、とりあえずは港の倉庫はどうだろうか? たしか空き倉庫が幾つかあったはずだ。 つれて帰ったらできるだけ早くオリを作らないといけない。 いつまでも縛っておくのはかわいそうだし。
言葉を話すタルタロッサ。 ビスクの街はきっと大騒ぎになる。 たぶんダイアロス中から見学者がやってくるだろう。 ダイアロスの研究史に私の名前が刻まれるのは間違いないことに思える。 そのことを想像するだけで、思わず笑いがこみ上げてくる。
この先タルーマンはどのくらい生きるのだろうか? タルタロッサの寿命がどのくらいかはわからないけど、たぶん人よりは短いだろう。 だからタルーマンの寿命も人よりは短いんじゃないだろうか? タルーマンが死んだら、その遺体は研究のため解剖することになると思う。 人とタルタロッサの中間的な生き物。 その謎を解き明かすためには解剖が必要だから。 そのあと剥製にするか、ホルマリン漬けの標本にするか。 そうしてタルーマンは永遠に行き続けることになるんだ。 少しかわいそうな気もするが仕方がない。 研究のためには犠牲がつき物なのだから。
おしまい