[カザヒシのメモ帳]
そこは独特の雰囲気と乾いた空気で満たされているようで、少し不思議な場所だった。 驚くほど大きな骨らしきものが各所に見える。 これが彫刻などではなく、本当に生きていた生物の化石だとしたら恐ろしいことだ。 骨一本で一体どれだけの大きさになっているのか、図ろうにも大きすぎて難しい。 ともかくこれが生き物の骨であったのなら、高原を踏みつぶしてしまえそうな大きさだ。 ダイアロスでは色々な生き物を見たが、これほど大きな骨を持つ生き物は流石にいないだろう。
オルヴァンとノッカーが徘徊しているため油断はできないものの、辺りを見て回ることにする。 地面から突き破ってきたような無数の巨大な骨、凹凸の激しい地形、乾いた白い砂。 色のない白い地面が続き、目に映るのは骨と骨。 なぜかどの骨も、横たわっているようなものはほとんどなく、天を向いているものばかり。
エルガディン人でなくても、ここが何か特別な場所だということは分かる気がする。 生物はいるが、なんだかとても……寂しい場所だ。 年老いた竜たちは、わざわざこの地へ足を運んで、その最後を迎えると聞く。 この場所を選ぶのは、帰巣本能のようなものがあるのかな? それとも、なにかどうしてもこの場所でなくてはならないようなものが、 ドラゴン達にとってはあるのだろうか? 自分が死ぬ場所……どこで死ぬか、なんて今まで考えたこともなかったが、 私ならせめて、静かでゆっくり休めそうな場所が良いと思う。 ドラゴン達も私と同じような考えをして、ここで眠りにつくのだろうか?
あまり安全な場所ではない為、ゆっくり調査をするのも厳しかった。 危険を感じたらすぐに猛ダッシュで逃げることに徹したため、流石に疲れた。 ちょうど近くに見えた見張りの塔で一休みさせてもらった時、 親切なガードの女性は戦争についての思いを聞かせてくれた。
「ビスクとの戦争で絶対に許せない事があるの。 いきなり大陸から来て、エルガディン人の 土地を奪ったのも許せないけど…
イチバン許せないって思ったのは あたし達の歴史を奪ったことよ。
古代から伝わる書物や研究書… 今に生きる、英雄たちの言葉…
エルガディン人が大切にしていた書物の全てを 奴等に奪われてしまったの…」
彼女にとって、ビスクは島への侵略者というより、 エルガディンという歴史や文化に対する侵略者なのかもしれない。 『島の平和』、たとえそんな大義名分を掲げようとしても、やはり上手くはいかないのだろう。
「あたし、戦争は大嫌い。 でも大切な人は守りたいの。 だから兵士になったのよ。」
彼女の目の奥に、確かな意思を見た。