[カザヒシのメモ帳]
今回は素直にアルターで移動し、さっそく地下墓地にいる人達に話を聞いている。 彼らの独特な価値観は相変わらず、という具合だが、最初に驚いたことがある。
地下墓地の人は、話好きが多いのだ。 不気味で陰湿な邪教徒といわれる彼らは、他の街で会った人たちよりも遥かに口数が多い。 ガードの人達は自分が何をしているか、今までどうして来たかなど、細かく話してくれる。 それはある意味でマブ教への勧誘の一環なのかもしれないが、少なくとも私にはありがたい。 そこには彼らの出自と、ここに来た理由があった。
「マブ教へ入信する前は、ビスクで暮らしていました… えぇ…キ・カ大陸より渡ってきた人間なのです…
ウソで塗り固められたビスクより… マブ教の方が、純粋で分かりやすいと思いませんか…?
他人のモノを奪いに来たのなら 堂々としていればいいのですよ!
神のためだとか、皇帝のためだとか… ぜんぶ偽善にすぎません…おぉ、汚らしい… 魂から吐き気がしますね…おぉ、恐ろしい…」
彼女はビスク、ドラキア帝国とラル・ファク教を丸ごと否定するような物言いだった。 少々過剰な言い方だとは思うが、結局のところ、ドラキア帝国はノアストーンを奪い取りに来たのだ。 それを誤魔化すかの如く、神のため、皇帝のためにという考え方についていけなかったようだ。 純粋でわかりやすい、というのはあながち間違ってもいない気がする。 少なくとも、彼女を始めマブ教徒達は嘘をついたり、目的を誤魔化そうとしている様な素振りがない。 力を求め、邪魔者は排除し、ただ力を持つ者が支配する……極端な考え方だが、目的は明確だ。
「俺様は エルガディン人 として生まれた。 小さい頃から竜神を信仰し、崇め奉ってきた。 困った時には助けてくれる…そう教わったものだ。
だが、どうだ! あの有様は! なぜ、ビスクに負けた!?
必ず竜神様が助けてくれるはず… そう信じていた俺様は、世間知らずの餓鬼(ガキ)だ。」
エルガディン育ちという彼は、ビスクに負けたことで、信仰心を失った。 信じていれば救われる……そう信じていても、彼らは負け、救いはなかった。 敗北し救いがなかった以上、彼のように考えてしまうのも、仕方がないのではないだろうか。
私は気付いた。ここにいる人たちは、『いなかった人たち』なのだ。 私がビスクの街、エルガディンの人達に話を聞いて回った時、 「どうしてこういう考えの人はいないんだろう?」と疑問に思うことは何度かあった。 ラル・ファク教の教えに疑問を持つ人。 竜神を信じていたのに、戦争には負けてしまったことに疑問を持つ人。 そういう人がどうして街にはいなかったのか、その答えは簡単だった。 『いなかった人たち』は街を去り、みんなここへと辿り着いていたのだ。