[ウィッチブレードのひとりごと]
私は家のベッドに寝そべりながらぼんやりと考えていた。 ダイアロスで泥棒をしている人たち。 彼らは何のために泥棒をしているのだろう? お金のために泥棒をしているわけじゃないのは確かだと思う。 だって、泥棒よりもっと簡単で儲かる仕事がたくさんあるんだから。
じゃあどうして彼らは泥棒をするんだろう? 他人の物を盗むのが好きだから? そういうことなんだろうか? いくら考えてもそれ以外に理由が思いつかなかった。 ほかに思いつかない以上、それが理由なんだと考えるしかない。
他人の大事なものを盗んで喜ぶ人たちがいるのかもしれない。 その想像は私を嫌な気持ちにさせた。 他人の大事なものを盗んで、その人が困ったり悲しんでいるのを見て楽しんでいるのだろうか? だとしたらとても許せないことだ。 考えれば考えるほど、おなかの中に何かもやもやしたものが、たまっていくような気がする。
もしそうだとしたら、あの男は私の財布を盗んで逃げた後、物かげからこちらの様子をうかがっていたのだろうか? 私が財布を盗まれたことに気づいてうろうろしているのを見て、楽しんでいたのだろうか? たぶんそうなんだろう。 人ごみの中からこちらを見ているコグニートの無表情な顔が、私には見えたような気がした。
だいたいコグニートはみんな無表情だ。 それがほかの種族と全然違うところだと思う。 私たちエルモニーはもちろん、パンデモスやニューターの人たちも表情が豊かだ。 泣いたり笑ったり怒ったり。 でも、コグニートの人が感情を表に出したところを、私は見たことが無い。 たまに口元をゆがめたように見えるときがあるけど、ひょっとしたらあれが笑っているときなのかもしれない。
難しい魔法を使ったり、難しい本を読んだり、難しいことを考えたり。 コグニートの人たちは、確かに頭がいいんだと思う。 でも、おなかの中では何を考えているかわからない人たちでもあるんだ。 彼らと心の底から分かり合えることは絶対に無いんじゃないかと思ってしまう。
つづく