[ウィッチブレードのひとりごと]
会長にセレナイアさんと呼ばれたコグニートは、会場の前のほうにゆっくりと歩いていく。 私は彼女の背中をにらみつけた。 一体何を話すつもりなのだろう? 発表会の案内には、ビスク港の塔についての話だと書いてあった。 ビスク港には塔なんて無いのに・・・。 何を話すかわかったもんじゃない。 悪いコグニートにだまされないよう気をつけなくちゃいけない。 私は気を引きしめた。
発表が始まると、案の定彼女はおかしなことを言い始めた。 ビスク港にある灯台と呼ばれている建物は、実は灯台ではないのだという。 それを聞いて私は思わずふきだしそうになった。 あの建物が灯台であることは、広場で遊んでいる子供たちだって知っている。 建物の中で窯を炊き、その光であたりを照らしているんだ。 こんな話では子供だってだませやしないのに。 いったい彼女の目的は何だろう?
私がそう考えていると、彼女はミーリム海岸の灯台との比較を始めた。 立地の違いや、建物の構造の違いなどを一通り説明した後、彼女は2枚の写真を黒板に貼り出した。 海岸の灯台と港の灯台を夜中に撮影したものだという。 ミーリム海岸の灯台は光を放っているのに、ビスク港の灯台は光を放っていない。 一番後ろの席からでも、それがはっきりと見える。 会場がざわつき始めた。 そんな会場の雰囲気を確かめるように、彼女はあたりをゆっくりと見回した。 そして、会場全体によく聞こえるようなはっきりとした声で、ビスク港の灯台は灯台の役目をはたしていません、と言った。
あれ? これはいったいどういうことだろう? 私は混乱していた。 ビスク港の灯台が光を放っていないというのは本当だろうか? それとも嘘なのだろうか? そんな私の心を見透かしたように、彼女は私のほうに目を向けた。 そして私と目が合うと、にっこりと微笑みかけてきた。 私はその笑顔に見とれてしまった。 こんなに笑顔が素敵なコグニートには、今まで会ったことがない。 心の醜い人が、こんな素敵な笑顔をしているはずがない。
その瞬間、私にはわかった。 この人は普通のコグニートとは違う。 この人は悪いコグニートじゃない。 良いコグニートだ。
つづく