[カザヒシのメモ帳]
結局モラ族からはイーゴ様に関する話やモラ族の予言に関する話は聞けたものの、 宗教的な話は特に出てこなかった。
次はエルビン方面に向かって、 山麓の村に住むオーガ達の話を聞こうか、サスールの住人の話を聞こうかと迷っていたところ、 すっかり失念していたことがあるのに気が付いた。
ここヌブールの村の隣にある、アルビーズの森。 そこには、ウォルフガング様をはじめとするフォレスターの人達が、 ランダル洞窟で自然と共に暮らしているということだ。 それなりの人数が集まっており、小さな集落といっても差支えはない程度に人がいたはず。 種族や村単位で考えることに囚われ過ぎて、すっかり忘れてしまっていた。
せっかく近くにいるのだし、実はあまり彼らの話もちゃんと聞いたことがないと気付いたので、 このまま直接ランダル洞窟へ行って、彼らの話を聞いてみることにする。
ヌブールの村からアルビーズの森に入り、危険なオルヴァンやスプリガンがいる地帯とは少し遠く、 左手の崖に沿って進めば、ランダル洞窟へと辿り着ける。入口には、ガードの人もいる。 洞窟になっているのは入口や出口となる部分で、内部は比較的広く、開けた場所になっており、 中央には驚くほど太く、巨大な木が一本。 そしてそこには、私の記憶よりもたくさんの人がそこにいた。 生産設備もある程度は揃っており、武器や防具、食べ物など、一通りの買い物はできそうだ。 問題といえば、魔法の触媒を扱っている店がないことだろうか。 罠として使う種や、投げつけて使う肉団子などは豊富だが、魔法に関しては専門外らしい。
フォレスターの使う技や道具について、他の場所ではあまり耳にすることがない。 その分、フォレスターの本拠地と言われているこの場所では、種や団子の使い方など、 フォレスターに関する知識を教えてくれる人が多く、弓を専門に扱う珍しい店もあるほどだ。
この場所の名前は、ランダル洞窟。自然と共に生きる、フォレスター達が集う場所。 「ランダル」という言葉は、「追憶」という意味を持つらしい。つまりここは、『追憶の洞窟』。
十二日間戦争で活躍した三人の英雄、トライデントの一人として、 ビスクのビクトリアス広場に巨大な像が建てられているほどの人物、 偉大なるフォレスターであったジュネ様。そしてその息子がウォルフガング様だ。 かつて父と十二日間戦争に参加し、その父を失い、ビスクを去った一人の青年。 彼と、彼と共にこの地へ来た人たちには、それぞれの「追憶」があるようだ。
街を離れ、大自然の中で暮らす人たちは、何を思い、どんな追憶を持ってここにいるのだろうか?