[元銃弾販売員Ctanaの日記]
北にある大きな滝から流れ落ちた水は、円形の土地をぐるりと取り囲むように水辺を作っている。 中央には、こずえの先も見えないほど高くそびえる巨大な樹。エルアン宮殿の中庭にあった木を大樹などと呼んで良いのかなと思ってしまうほど大きな樹だ。
Large Tree of Mytoja ここはミトヤの大樹と呼ばれている。
大樹の幹からほど近いところに、私や賢者さんの居候している家がある。 家の隣りには、家主さんの経営するオープンカフェ。私は、どこへも出かける用事がないときは、たいていこのオープンカフェの椅子に座ってぼんやり滝を眺めている。
今日、私は、いつものカフェの椅子に座って、ここはいったいどこなんだろうと考えていた。もちろん、ここがどこなのかは知っている。ミトヤの大樹にある、私が居候している家の隣りのオープンカフェだ。どこなのだろうというのは、そういう意味ではなくて、この場所というのは、いったいどういう場所なのだろうという意味。ここっていったい何なのだろうという意味だ。
ここは、現代から1万3000年前の世界なのだそうだ。 現代のエルビン渓谷にある箱舟遺跡。あの遺跡の中にはウティルという名のモラ族が居て、一人で箱舟遺跡の管理をしている。
ようこそ時の旅人・・・ 我らモラ族は時の番人。 まずは話を聞いてくれまいか?
箱舟を訪れた私が声をかけると、ウティルはそう挨拶してから話し始めた。
この遺跡に残るアルターは現代と古代・・・ 時を紡ぐ特別なアルター。 遺跡に宿る記憶を秘めたノア・ピースを装備することで、時代を超えることができる・・・
エンシェント・エイジ(Ancient Age)には我々は移動することができない。 古代の繁栄時代に何があるのか・・・ それは、貴方の目で確かめてくれ。
我らの先祖がどのように繁栄し・・・ そして、どのようにして滅んだのか・・・
時の証人となるかと問われてYesと答えた私は、ノア・ピースに新しい記憶を吹き込んでもらい、アルターに乗って時を超え、現代から1万3000年過去のこの世界にやってきた。 家主さんと出会ったのが一年くらい前。その後、彼女の家に居候させてもらうようになり、今ではほとんどの時間をこのミトヤで過ごしている。
ここには、私のように、現代から時を超えてやって来た人たちがたくさん居て、家を建てたり店を開いたりして暮らしている。 だけど、ここに居るはずの古代モラ族の姿はどこにも見あたらない。 居るのは、古代モラ族が作ったと思われるロボットたちだけ。 色々な物を売ってくれるオートベンダーは、私たちの使う金(Gold)を集めているのはモラが魔力研究に使うからだと言っている。とすれば、金を使って魔力研究をしている古代モラ族がどこかに居るはずなのだけれど。
キーワードは繁栄。そして生存・・・
箱舟に居たウティルが言っていた言葉だ。繁栄はわかるけど、生存というのはどういう意味だろう。2つ目のキーワード、生存というのが、私にはまだよく理解できていない。 彼は、私に、この古代で何を見てこいと言いたかったのかな。
夕闇が迫るころ、賢者さんが帰って来た。 まだオープンカフェの椅子に腰かけて考え事をしていた私に気づくと、やってきて隣に座る。
「ラスレオ大聖堂の図書室で、調べものをしてきたの」 と、椅子に座りながら賢者さんが言う。
「エルアン人について、何かわかるかなと思ったのでね」 帽子を脱いでテーブルの上に置く。 どうやら、調べてきたことを話してくれるみたいだ。