[賢者Herionの仕事] ( [元銃弾販売員Ctanaの日記] 番外編 )
「いつもすみませんー。よろしくお願いしますー」 元販売員さんが、走る私の後ろから声をかけてくる。 振り返っても彼女の姿は見えない。彼女は今、霊体として存在しているのだ。
私たちはその生命力が尽きて息絶えると、魂だけの存在になって復活場所へと帰ってゆく。 その魂だけの状態が、今、私の後ろを走っている販売員さんの状態。つまり霊体だ。
霊体の状態で自分の死体がある場所まで行って、死体と魂を結び付けることができれば復活できる。ただし、死体のある場所が敵の多い場所だったり、地形的に行くのか困難な場所だったりすると、能力の低くなっている霊体の状態でたどり着くのは難しい。そこで私の出番となる。
アルター召喚の魔法を使って、霊体を死体がある場所の近くまで運ぶ。 敵に襲われないように、安全な場所へ魔法で死体を引き寄せる。 死体に蘇生魔法をかけて復活させる。それが私の仕事だ。
知り合いに頼まれると、よくそうして死体引き寄せのためにでかける。 今日は、元販売員さんがゲオ大空洞でモグラにやられたと霊体でやって来たので、一緒にゲオに向かっていた。
「それにしても、ゲオ大空洞でいったい何を? モグラの生態観察でもしていたの?」 と私。 彼女の戦い方は知っている。召喚した魔物に戦わせて自分は後方から支援するタイプだ。 いつの間にか這い寄ってきているスライムや、土の中から突然現れるモグラが居る大空洞は、彼女にとっては戦いやすい場所ではない。後方支援タイプは、突然後ろから襲われると脆い。 そんな戦いにくい場所で、一人で何をしていたのだろうと思ったからそう訊いてみたのだ。
「Ancient Ageのことを調べてるの」 と販売員さん。
「この世界の元になった時代。古代モラ族がやってきて、ダイアロスを開発している時代。この時代を調べれば、何かわかるかなーと思って」
大空洞入口に着いた。 私は、元販売員さんに魔法をかけて、彼女の死体を足元に引き寄せる。
「それで?なにかわかったの?」 足元に現れた死体に蘇生魔法をかけながら訊く。 彼女は、蘇生されていつもの姿に戻ると、肩をすくめて首を振った。
そういえば・・・。 ふと思いついて言ってみる。 「このAncient Ageにもソウル・バインダーが居るのは知ってるかしら?」 引き寄せた死体が足元にふわっと現れるのを見て、ソウル・バインダーを連想したのだ。
彼女は、首を横に振って知らないと言う。 そもそも、この人は、用事が無い場所へは行かない人だ。 仕事で、生産に使う素材集めの狩りをしに行く他は、あまりあちこち出歩くこともない。 Ancient Ageには彼女が狩る獲物は居ないから、おそらくこの時代のことはほとんど知らないのではないだろうか。
「モラタワーにソウル・バインダーが居るのよ。ちょっと行ってみましょう。ここからならそう遠くないから」 私は先に立ってゲオ大空洞を出た。 ゲオのメインアルターへ向かい、そこからモラタワーへ移動する。
殺伐とした景色以外には何もない場所。古代モラ族の拠点モラタワー。 そこに居るロボットのハウスガイドは「趣味の悪い通り道」だと言っていた。 用事が無くてもあちこち歩き回る私ではあるけれど、モラタワーへ行くのは久しぶりだった。