完全な形を保ったアルターの建物から1歩外へ出る。
迷路のように複雑に入り組んだ地形に、どこを見上げても大きく枝を広げた木々。
湿った土の匂いと、木洩れ日を瞬かせるそよ風の音が聞こえるそこは
今まで訪れたどの土地よりも心が落ち着く。
私は、謎多きモラ族の暮らす、ヌブールの村を訪れている。
目的はもちろん、彼らのことを知るために。
モラ族は体が小さく、力も弱かったために
過去にはエルガディンの、最近では入植当初のビスクに迫害を受けた。
もちろん…私がこの島にたどり着く前のことだし
ビスクによる迫害も、イルミナ様やミスト様の意に反するものだったと信じている。
それでも、ビスクやネオクで暮らす私たちのことを
快くは思っていいなんじゃないかと心配したけれど
歴史を変えるために、島の外からやってきた私たちのことを歓迎してくれた。
まるで蟻の巣のように、トンネルを抜けた先や
崖の下に点在する彼らの家々を巡りながら話を聞いていく。
彼らの話に共通するのは、古代モラ族の栄華と
現在のモラ族を惨めに思う気持ち
それに未来を変えたいという強い望み…
未来を変えたい、というとても前向きな意思はわかる。
けれど、まるで今のモラ族は歴史の敗者として
語るべきことは何もない…と言っているようにも聞こえる。
事実私も、古代モラ族が残したものに惹かれてここに来たわけで
長年虐げられてきた彼らの気持ちを理解することもできないと思う。
けれど、今の彼らに何の魅力もないかといえば、それは違う。
ヌブールの村を少し歩くだけでも、目に映る多くの物が興味深い。
私はしばらく、「今」のモラ族に目を向けることにしましょう。