ネオク山の銀行前。
昔ここで売り子をしていた時にはもっとたくさんの人が居たけれど、久しぶりに訪れたその場所はずいぶん閑散としている。
あれだけたくさん居た売り子たちも今は姿が見えず、夜な夜な集まって来ていた人たちは、もうここには居ない。
私は今日、銃弾を売っている。
売り子をやめてからずいぶん時間が流れたような気がする。 あちこち見て回って、あちこちでいろんなことをした。 もうこのダイアロスに、私の見ていない場所は、無い。
バエルはいったいどこから来たのか。オークたちはどこへ行こうとしているのか。イクシオンたちはなにを夢見て修行をつむのか。
エルアンナイトはいったいなにを守っているのか。古代のモグラはどうして居なくなったのか。そして、モラはなにがしたかったのか。
みんな、ただ一生懸命生きていたのだろうか。
タルタロッサを狩りに行く道中、イクシオンを応援したことをおぼえている。
ワンピースを着た“読み手”さんが、エルビン渓谷で弾いたリュートの音色をおぼえている。
私がこの世界でたしかに生きていたことをおぼえている。
そして、今日私は銃弾を売っている。
ずっと羽織っていた黒いマントは通りすがりの人にあげてしまった。
しまい込んでいた、昔着ていたシルク素材のローブを引っ張り出して着込んだ。
ずっとこのローブを着て、ここで銃弾を売っていたのだ。
簡単に作れるのに誰も着ていない。それだけで選んだ衣装だった。
昨日まで着ていたものに比べれば、やぼったくて見栄えのしないシルクのローブ。
だけど、これが私だなと、そう思った。
長くしまい込んだままでカビ臭くなっているシルクローブを撫でてみる。
そう。これが元々の私だった。
ムトゥーム地下墓地で、私の影にひざまずくモンスターを見ながら誓ったことをおぼえている。
未来の氷に覆いつくされた世界で、呪ったことをおぼえている。
そして、私が殺傷の道具をずっと売っていたことを、おぼえている。
包帯を売ればよかった。薬を売ればよかった。
でも、私は銃弾を売っていた。 そして、今日、私はまた銃弾を売っている。
生まれ変われるのなら、銃弾は売らない。
包帯を売る。
薬を売る。
食べ物を売る。
飲み物を売る。
家具を売る。
癒せるものを売る。
殺傷の道具は、売りたくない。
今日、私は銃弾を売った。
明日もたぶん銃弾を売る。
これが世界なのかなと思いながら、私は明後日もたぶん銃弾を売っている。
明々後日は、違う生きかたができるだろうか。
だけどきっと、私は銃弾を売る。
ずっと売り続ける。
良いことなのか悪いことなのかは私にはわからない。
ただ、私はきっと、そういう人なのだろう。
元銃弾販売員Ctanaの日記 Fin
ご愛読ありがとうございました。
え???誰も読んでないって?うそーーー!!!
あと、遺影に私の姿も載せて欲しいっっ。
初代と二代目だけで三代目の姿がないのは悲しいぞっっっ。