[セレナイアの手記]
夜の港はとても静かで、一人で考え事をするのにぴったり。 黒い海から押し寄せる白い波のコントラストを眺めながら 不規則に変化するかがり火の炎に照らされていると 私の心も不規則になりそうで、足早に堤防を駆け抜けた。
私が再び港を訪れたのは、ここの塔の2つ目の謎 「炉のようなもの」を調べるためだ。
もう一度、近くでよく見てみよう。 分厚い鉄の板を組み合わせてできた球の中で 勢いよく炎が燃えているのが見える。 のぞき窓もがっしりとした作りで、真鍮の金具でしっかり押さえつけられている。 この部屋に扉はついていないけど、長居するとのぼせるほど暑い。
たまらず外に飛び出した私。 突き出した棒を調べたときと同じように まずは街中に似たようなものがないか探すことにしよう。
まずは、すぐ近くの料理ギルド「シェル・レラン」のキッチンにある「かまど」。
うーん、鉄でできていて、のぞき窓があるところは一緒だけど 下から薪をくべているし、煙は上に吹き抜ける構造になっている。
さすがに、シェル・レラン用超巨大グリルってことはなさそうね。 マグロの丸焼きは食べてみたいけど、あれで焼いたら炭になってしまいそうだし。
次は、炉といえばこれ、西エリアにある溶鉱炉。
金属を溶かすほどの熱を出すものだから ほとんどレンガでできているし、ちゃんと煙突もついている。
なにより、溶けた金属を下から取り出すようになっているから 構造も全然違うっぽい。
あれこれ探しているうちに、ビスクをほぼぐるりと一周して東エリアにやってきた。 酒場の隣で見つけたこれは、お酒を造るのに使う器具。
…なんだろう、意外と近い形をしてる? 金属の丸いポットの下で火を焚いて、のぞき窓がついている。 これには煙突があるけど、蒸気を吹き出すときに突起がぴこぴこ動いている。
なんでこんな形をしてるのか、よくわからない。 酒屋さんから、醸造技術の巻物を買って読んでみることにした。 それだけじゃ申し訳ないから、ついでにウォッカも買いましょう。
酒場のテーブルに巻物を広げて、ウォッカを味わいながら読みふける。
巻物によると、これはスチルポットというものらしい。 麦や果物の汁なんかを絞って、酵母で発酵させるとお酒になる。 でも、発酵の力では度の強いお酒ができないから 水とアルコールの沸騰する温度の違いを利用して アルコールだけを取り出せるようにしたのがこの器具ね。
丸い形は、お酒を沸騰させたときの蒸気の圧力に耐えるためで 中の管を通って冷えたアルコールが下のタルに落ちるって仕組みね。 …考えた人はすごいなぁ。そんなに強いお酒のみたかったのかな。
丸い形が圧力に強いっていうのは、ヒントになる気がする。 もちろん、塔のあれにはタルはついていないから お酒を造りまくってるってこともないでしょう。
となると、蒸気だけをどうにか?
ふわぁ。なんだか眠くなってきた。 ちょっと、飲みすぎたかな。 続きは、酔いが冷めてからでも…