[元銃弾販売員Ctanaの日記]
古代モラ族はホムンクルスを作って、それを使役していた。労働力として使っていたらしい。 モラがどこから来たのか、ここに来たのは何のためなのか。ここでいったい何をしたかったのか。そして、ここで何をしたのか。 わかっていることは少ない。
今も神の名前として残っている七賢者。 奈落の神ゲオ・生命の神ユグ・知恵の神フェンネ・空の神シス・力の神ソレス・山の神ロザロト・森の神ミトヤ。彼らは古代モラ族だったのだそうだ。
神として名前が残るほどの古代モラ族。 いったいどんなすごいことをこのダイアロスでしたのだろう。 私が知っているのは、ホムンクルスを創って労働力にしていたこと。アルターを造ったこと。そしてノア・ストーンを使いこなしていたということくらいだ。
彼らによって創られたホムンクルスは、古代モラ族の衰退後に自分たちの文明を作り、エルアン人と呼ばれた。彼らの作った文明は、エルアン文明と呼ばれている。
ホムンクルスたちは、いったい何を思い、何を感じていたのだろう。 作られた生命と、そうでない生命には違いがあるのだろうか。それともその2つには違いなどないのだろうか。
私は、この島へ来る前のことを憶えていない。 私は確かにここへ来る前にも生きていたはずなのだけど、生きていたという実感はない。 ここで、この島で、あの時あの海岸で私が産まれたのだとしても、今の私との違いはないのかなと思う。そう考えてみると、生命の大事な部分は記憶でできているのかもしれないなとも思える。
この島へやってきたとき、私は産まれたのかもしれない。 少なくとも、記憶ということに関してはそうだ。 この島へ来て、鍛冶屋さんと出会って、銃弾を売る仕事に就いて、あちこち遊びに行っているうちに魔物を召喚することを覚えて、その頃出会った賢者さんと、居候している家で今こうして一緒に暮らしている。
島に来る前から私が生きていたとしても、あの時あの海岸で産まれたのだとしても、どちらもきっと今の私になっているだろう。そこに違いは無いような気がする。 だとしたら、ホムンクルスたちもそうなのかもしれない。
「ノア・ストーンは、どうやら1つだけではなかったようね」 テーブルの上に置いたガープの石を人差し指で押さえ、器用に他の指を使ってくるくると回しながら、賢者さんが言う。 いつものオープンカフェのテーブル。いつもの席。賢者さんの前に玄米茶が置かれているのもいつも通りだ。
「かつてはもっとたくさんのノア・ストーンが存在していたらしいわ。この世に1つというわけではなくて、作り方さえわかっていれば、いくつも作れる物みたいね。今ではもう、その作り方もわからなくなってしまっているのだけど」 アルケィナで聞いてきた話なのかと思ったのだけど、どうやらそうではないみたいだ。 賢者さんも、あちこちでいろんな人に話を聞いて、自分なりに色々と考えてみたりしているらしい。
「アルビーズの森に居る、スプリガンを知っているわよね?」
「はい。知ってますけど、アルビーズはあまり詳しくないです。あそこには私の獲物になるようなものが居ないから」 ふむふむと言いながら聞いていた賢者さんは、これから行ってみましょうと言いながら立ち上がった。まだ時間も早い。なにを見に行くのかはわからないけど、断る理由も特にない。
私は、賢者さんと一緒に、森にでかけることにした。