[カザヒシのメモ帳]
ビスクからレクスールを越え、イルヴァーナを抜け、高原を走るとなるとなかなかの距離だった。 アルターまで走ると決めておいて何だが、調査の前に一休みしよう。
アルターに着いたところで、ひとまず辺りにいる人たちに話を聞いてみた。 この山のこと、エルガディンの事、先の戦争のこと、ビスクについてのこと。 ガードやエルガディンの人たちも、ビスク同様旅人には寛容で、 ビスクの味方でないのなら歓迎という雰囲気だった。
クリエイターの町というだけあって、生産に関わる話が多く、そういう仕事についている人も多い。 ビスクとの戦争に負けたことから、今は国力を養うべく、モノ作りに力を入れている。 そしてその為の設備や人材が豊富にあるのが、今のエルガディンだ。 話を聞いてみても、生産の技術や方法について詳しい人が多いようだ。 旅人である私にも、生産の基礎を教えてくれたり、 実践してみることを勧めてくれるのだが、今は目的が違うのでやんわり断る。
もちろん彼らのほとんどはビスクを憎んでいる。 仲間や家族を殺され、故郷を奪った存在を許すはずもないだろうから、それは当然だ。 ビスクの味方であるなら容赦しない、そういう態度の人もいる。 だが、中にはその事実を客観的に受け入れ、冷静な判断をする人もいた。 それはエルガディンを見下し、馬鹿にするようなビスクの人達とは少し違うように感じる。
「ビスク人をヒドイ! 鬼!って言うのはカンタンよ。
でもね…、あたし達だってヒドイのよ…
エルガディン人はかつて、勢力範囲を広げるために 先住民族であるモラ族を、島の奥へ追い立てたの…
そして、たくさん、たくさん殺した…
ビスクと同じようなヒドイ事を あたし達も他の種族にやってるのよね…
人の罪って、巡りめぐっているんじゃないかって思う事があるの。」
かつてこの島にいたモラ族から、ダイアロスを奪ったのは遥か昔のエルガディン人だ。 エルガディンの人はそれを知っているし、侵略された側になったからこそ、 自分たちの先祖が侵略者であったことをはっきりと自覚しているのかもしれない。 ビスクの人たちとは異なり、エルガディン人の中には複雑な思いを抱いている人もいるようだ。
もちろん、だからと言ってビスクの侵略を許せるかどうかはまた別だ。 ネオク・ラングのガードの人は言った。
「エルガディン人を殺し、その血を浴びても…、なお。 彼らは、島の幸せを願って来たというのか?」