[カザヒシのメモ帳]
ここまで来たら飛竜の谷にある建設中の砦へも足を運んでおきたい。 道中ははっきり言ってかなり危険だし、砦は高原から一番遠いと言えるほどの距離にある。 なんとか駆け抜けてみよう。
サソリが活発に動く夜が明けるのを待ってから、飛竜の谷へ向かう入口まで走る。 竜の墓場にある各所の窪みも、私なら何とか飛び越せたため近道にも逃げ道にもなったのは幸いだ。 元々ドラゴンはいるしオルヴァンだのクロコダイルだの大型のサソリだので危ない場所だが、 最近は凶暴なドラゴンまで現れ尚更危険だ、と飛竜の谷への入口でガードの男性に警告されてしまった。 とは言えそこもエルガディン人がそれなりにいるのだろう。そうなれば行かないというわけにもいかない。
道中はやはりかなり危険だった。出来ることならもう通りたくない道だったが、 何とか生きて砦の入口まで到達することは出来た。 しかし、流石は軍事拠点というだけのことはあり、話をしてくれるような人はまずいない。 流石に今の時点でここまでビスク軍が攻めてくる危険があるというわけではないようだが、 なんと砦はドラゴンに攻撃を受けることがあるという。 砦の周りは飛竜に跨った竜騎士が飛びまわり、兵士から緊張感を感じるのはこれが原因のようだ。
「意思の疎通が出来ているのは 飛竜 のみです。 オルヴァン 等のドラゴン族は 個の力は脅威にはなりませんので問題ありません。
しかし最近、千年竜 と呼ばれる 古種竜 が 谷に生息域を移しはじめました。
千年竜 の餌は、同族である 飛竜 。
千年竜 は繁殖期に入っているようで 気性も荒く、砦への攻撃も繰り返されています。
飛竜 や 砦 への攻撃… 非常に問題となっています。」
司令官の女性が教えてくれた現状はこうだった。 あくまで飛竜、スカイドラゴン以外のドラゴン族とは意思の疎通は出来ないようだ。 竜を信仰しているとはいえ、飛竜は飛竜、千年竜はまた別の竜、ということのようで、 可能であれば千年竜を討伐して欲しいとまで言われた。もちろん私一人では無理だが。
正直苦労して足を運んだ割には、収穫は少なかった。 軍事施設で暢気に世間話をしてくれる人はほとんどおらず、 警戒中の兵士、訓練中の兵士、あとは物資の補給や修理を任されているであろう人達が数人。 建物の中にはもっと人がいるのかもしれないが、建物内は軍事機密なのか、門前払いされてしまった。 こうしてほとんど話を聞けないまま終わってしまった。 帰り道が心配ではあったが、なんとエサ代を払えば運送竜で運んでもらえるとのこと。 すぐさま了承し、空の旅という貴重な経験が出来たので良しということにしておこう。
エルガディンでの調査はひとまずここまでだろう。 竜と共に生きてきた人達は、戦闘も運送も竜を使い、今もまだ竜と共に生きていた。 信仰によって何を信じてどう生きるかはともかく、 竜と共に助け合い生きていくエルガディンの人達の生活は、 動物との理想的な共存の形の一つのように思う。
ラル・ファク教は、人が人を動かすための宗教であるように思えたが、 エルガディンは竜と仲良く共存していくための教えを宗教としているようだった。 それはとても……私は素晴らしい教えであるように思えた。
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