[元銃弾販売員Ctanaの日記]
ツルハシが岩を叩く音がこだましている。 リズミカルに、休みなく、鍛冶屋さんは掘り続けている。
「まあいいけどねー、私としてはありがたいし。でもお礼なんかいいのに、久しぶりの狩りで私も楽しかったんだから」 私は、鍛冶屋さんが掘っている横で座っている。 ときどき立ち上がって回復魔法を唱える。 鉱山を案内してもらったお礼に、今日は採掘のお手伝いをしているのだ。 手伝いといっても一緒に掘っているわけではない。鍛冶屋さんが疲れたら活力を回復する魔法をかけてあげている。
周りには、白く半透明な姿がふわふわと行きかっている。レイスと呼ばれる幽霊たちだ。 ここは地下にある墓地のさらに奥。幽霊たちしか居ない静かな、そして薄気味の悪い場所である。
「この幽霊たちは、なんにもしてこないの?」
「こっちから手を出さない限り、なにもしないよ」
「そうなんだ。なら、少し安心かな。こんなにたくさんの幽霊に一度に襲われたら、さすがにちょっと怖いだろうからね」
「そうだねー。確かに少し厄介かな。ここのレイスたちは魔法を使うから」 鍛冶屋さんは掘る手を休めないでそう言う。
鍛冶屋さんがくたびれるまで特にすることもないので、私はぼんやり考えていた。 魔法を使う…。そう、バエルたちはどれもみな魔法を使う。ただ1種類、バエルウォッチャーだけが魔法を使わない。
ただ1種類だけ他とは違う物を持っているガープと、ただ1種類だけ魔法を使わないバエルウォッチャー。 今まで私は、違う物を持っているからという理由でガープのことを変わり種だと思っていた。 でも、もしかしたら、魔法を使わないバエルウォッチャーの方がバエルとしては変わっているのかもしれない。
「で、けっきょく」 手を休めることなく鍛冶屋さんが言う。
「アルケィナは何をしているんだろう」 先日私と一緒にイルヴァーナの鉱山を調べに行ってから、鍛冶屋さんもアルケィナのしていることに興味を持つようになったらしい。あれ以来、ときどき私とその話をしている。
「ちょっと整理してみるね」 疲れの見え始めた鍛冶屋さんに回復魔法をかけてから、私は話し始める。
まず、アルケィナは、旅人を守るためにガープを狩らせてガープの石を持ち帰らせている。 しかし、ガープが居るのは道から少しはなれた場所だから、旅人が迷い込むことはあまりありそうにない。だとしたら、ガープの石を集めるのが目的なのではないだろうか。
そして、フローティングパウダーを集めるように頼まれたからと、わざわざ遠いイルヴァーナの危険な鉱山に居るバエルウォッチャーを狩らせている。 フローティングパウダーは、イルヴァーナよりも近いレクスールに居る弱いバエルからでも集めることができる。わざわざ遠くて危険な場所に居るバエルウォッチャーを狩らせるのは、バエルウォッチャーを狩るのが目的だからではないだろうか。
つまり、こういうことだ。 旅人を守るためというのもフローティングパウダー集めを頼まれたというのも口実で、ガープの石を集めているアルケィナはバエルウォッチャーのことを調べている。
「ガープの石を集めてるのに、なんでバエルウォッチャーを調べるの?」
「それがわからなかったんだけど、もしかしたらね」 私は、考え考え喋る。 ガープは、確かに他のバエルよりも弱い。だけど、あいつらは魔法を使う。 バエルウォッチャーはガープよりは強い敵だけど、体当たりしてくるだけで魔法を使わない。
「たとえば、頑丈な檻に入れてしまえば、バエルウォッチャーはもう何もできなくなるわ。ガープだとそうはいかないでしょう?檻の中から魔法で攻撃してくるから」 鍛冶屋さんは要領をえない顔をしている。
「つまり、バエルウォッチャーなら飼うのはそれほどむずかしくないと思うの」 私がそう言うと、鍛冶屋さんはあきれたような顔になった。