[カザヒシのメモ帳]
ガルム回廊の橋の東側、いつもの木の上で、個人的な仮説をまとめる。
かつて、レクスール・ヒルズから天空に続く神殿があった。 残骸の分布地図を見るに、天へと続く階段や黄昏の砦の周辺に、地上と天空を結ぶ建造物があった。 そして空中の神殿はレクスール・ヒルズから北へと伸び、ガルム回廊の上空にも届いていた。 空中にある神殿への移動というのは、そう簡単なことではないだろう。 歩いて登る者はあの階段から、そうでない者のために、なんらかの転移装置が作られた。 空中神殿の真下に当たるガルム回廊のこの場所で、その転移装置があった。 その転移装置への道として、この橋が作られた。
今の私は、こんな風に考えている。 もちろん確証はないし、仮説に次ぐ仮説だ。ただの妄想と笑われても仕方ない。 けれど未来の戦争のために作られた橋だというのは今一つ納得がいかないし、 それ以前の橋だとしても、仮説だらけになるのは同じだ。 そして他の誰かが何らかの理由で、この場所に橋を架けようとしていたという説では、 どうにも納得のいかないようなことが、少しだけ納得がいくように感じられる。
この地の真下で時空が歪んでいるのは、かつて空間を転移する装置があった影響ではないか。 この橋に現れる凄腕の魔法使いの幽霊は、かつての「番人」に当たる人だったのではないか。 忍者たちの一群が夜な夜なやってくるのは、かつてここにあった何かを探る目的ではないか。 この橋を復旧しても本当の目的地へは辿り着けないから、修理もされなかったのではないか。 地上から空中神殿へ続く道だったからこそ、それに相応しい立派な橋を架けたのではないか。
ガルム回廊を調査して見つかったいくつもの『謎』は、この仮説の上でなら、 ただのこじつけかもしれないけど、繋がるような気がする。
何度も見た地図を見て、ふと気付く。今いるこの場所は『ガルム回廊』。 『回廊』という言葉は、どこかとどこかを繋ぐ場所を指す言葉だ。 細長い廊下のような地形をそう呼ぶこともあるが、この地は比較的開けている。 ある場所から飛び地となる場所を結ぶところ、という意味もあったはず。 イプス峡谷とレクスール・ヒルズを繋いでいるというほど、大げさな場所ではない様に思える。
もし『回廊』が繋ぐ先が人の少ないアルビーズの森やヌブールの村を指していないとしたら。 かつて、地上と天に浮かぶ空中神殿を結ぶ為の『回廊』としての役割があったのだとしたら。
……この地で私が調査することは、もうなさそうだ。 初めてのフィールドワークにしては、随分長引いてしまったし、この場所以外もたくさん行ってしまった。 ひとまずこれを先生に提出してみよう。 私なりには真面目にやったけど、 フィールドワークなんてやったことのない私のこんなメモで、なんて言われるんだろうか?
「ただのくだらない妄想ですね」って、笑わないでくださいね?