[ウィッチブレードのひとりごと]
空がうっすらと明るくなってきた。 早朝のセリに向けて人通りが増えてくるころだ。 そろそろ張り込みを止めたほうがいいかな。 はぁ。 私は一つため息をつき、姿を隠していた物陰から立ち上がった。 ずっと同じ格好でしゃがんでいたので体がこわばっている。 私は体を覆っていた毛布をすばやく丸めると、家へと歩き始めた。
今日も空振りだったなぁ。 夜のビスク港で張り込みを始めてもう1週間になる。 あの人を見張ると意気込んでみたものの、相手はどこの誰かも分からない。 今のところ手がかりは、夜の港に出没するということだけ。 結局、夜の港で張り込みをするくらいしか思いつかないのだった。 とにかく姿を見つけたらあとをつけて、どこに住んでいるのかつきとめよう。
でも、あの人はこの1週間全く姿を現さなかった。 おかげでずっと夜昼逆転の生活が続いている。 昼前にベッドに入り、夕方目覚めると港に出かける。 夜の間張り込みをして、朝になったら港から家に戻る。 それから眠りにつくまでの間、エルガディンの調査をまとめる。 その繰り返しだ。
私は重い足を引きずるようにして部屋に帰った。 中央地区と西地区の間にあるオンボロな集合住宅だ。 家を買うのはとっくの昔にあきらめた。 家を空けていることも多いから、家を買うのはもったいない。 そう思うことにしている。
荷物を床に置き、ベッドに倒れこみたくなるのを我慢して机に向かう。 エルガディンの報告書を書かないといけない。 何もしなければ、いつまでたっても終わらない。 毎日少しづつでも進めれば、いつかは終わるはずだ。
報告書を書き進めるうち、少しおなかがすいてきた。 そのときはじめて、今日はまだ三食しか食べていないことに気がついた。 我ながら今日は少しぼんやりしている。