[カザヒシのメモ帳]
この地下墓地にいる人たちの出自を聞けば聞くほど、その多彩さには驚いてしまう。 拾われた戦争孤児、流れ着いた流浪の民、ビスクを去ってきた人、エルガディンから来た人。 彼らはそれぞれの理由でこの場所に辿り着き、そしてマブ教徒となった。
おかしな言動が目立つ邪教徒とはいえ、彼らがやってきたことに目を向けてみると、 闇の儀式どうこうを除いた場合の話ではあるが、戦争で親を亡くした孤児達を救っていたり、 行く当てを失った流浪の民を受け入れていたりと、 少なくとも困っている人のためなることもしている。
邪教徒と呼ばれていてもなお、それなりの数の人がマブ教を信じている。 マブ教には、それだけ人を引き付ける要素があるのだろう。 神殿の前にいた親切な女性は、マブ教についても親切に教えてくれた。
「昔は、普通の団体だったらしいわ…知らないけど? それが…8年くらい前に当時の教祖が惨殺されて 新しい指導者が マブ教の改革 に乗り出したの!
より強い力と支配を求めるようになって 悪魔に魂を売り渡したネクロマンサー達が 多く出入りするようになった…
私も、その、ヒ・ト・リ。 …なんだけど。ふふ。
まぁ…、おかしくなってきたのは、その辺からね。
でも、ステキじゃない? 私は偽善者とか大嫌いだし。 ……あ、でもね、意味の無い人殺しはイ・ヤ! やるなら徹底的に、悪としてやらないとね…。」
教団は元々、少し変わった宗教団体、という程度だったようだ。 八年前、当時の教祖は新しい指導者、つまりイーゴ様によって暗殺され、 イーゴ様はそのまま教祖となり、マブ教を今のような形へと変えた、ということらしい。 そして彼らは、純粋な力を持つ者の支配、こそが正しいと語る。
少なくとも彼女は、意味のない人殺しはイヤだと語った。 邪教徒にも邪教徒なりの信念があるのだろう。 根本から歪んでいるようにも見えるが、どこか真っ直ぐなようにも見える。
「我らマブ教徒は、確かに悪かもしれん。 だが、悪が必要な時代もあるのだ…」
彼らは自らを『正義』とは言わない。はっきり悪だと自覚している。 綺麗事や偽善を嫌い、イーゴ様へ忠誠を誓い、必要とあらば誰であれ厭わず手をかける。 彼らは皆、口をそろえてそう語る。自らが悪であることに、迷いを持たないのだ。
光に向かって進むのと同じように、それでいて真逆へ。 闇へと真っ直ぐ進むことで、彼らは迷わずに真っ直ぐでいられるのだろうか?