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エルアン文明研究会

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静かな村

[元銃弾販売員Ctanaの日記]

アルビーズの森から洞窟を抜けて、私たちはモラ族の暮らすヌブールの村まで足をのばした。 アルビーズからヌブールへは、森の東にある人工的に掘られた横穴を抜けてくるようになっている。ヌブールの村そのものも、横穴を抜けて行く道があちこちにある隠れ家のような村だ。

賢者さんの言うようにこの場所にわざわざアルターが作られたのなら、ここには何かがあっても良いように思う。だけど、この村には特別なものは何も見あたらなかった。 月明かりに照らされて、何もない村はただ静かにたたずんでいる。

元々エルビン渓谷にいた古代モラ族は、謎の災厄で力を失ったあと、サスールの保護を受けている。エルビン渓谷から北上して、エルビン山脈にあるサスールの国に身を寄せていたのだろうか。それとも、サスールの保護・援助は受けていたけれど、エルビン山脈とは別のどこかで暮らしていたのだろうか。

 

ヌブールの村のはずれには、クウェルクという名前のドワーフが住んでいる。真っ黒な鎧に身を包んだこの人は、各地を旅して過去の文献から様々な武器を復活させているのだそうだ。

クウェルクさんによると、今から5、6000年前に、エルガディン人の祖先にあたる者たちとサスール人、古代モラ族の間で、ノア・ストーンを奪い合う凄惨な争いがあったのだという。 この時は、ノア・ストーンを利用して大いなる力を結集したサスールとモラが、エルガディン人の祖先たちを退けたらしい。

エルガディンがノア・ストーンを奪い取ることに成功したのは王国が建国されたあと、今から500年ほど前のことだ。じつに5000年もの間、エルガディン(の祖先たち)はノア・ストーンを狙い続けていたことになる。

5000年の間に、次第に勢力を増していくエルガディン人の祖先たち。五大英雄が現れて飛竜を使うようになってからは、その力は一段と強力なものになっただろう。 その勢力に対抗するため、あるいは隠れるために、ここにアルターを作って村を作った?

いや、当時のモラ族は、もうアルターを作る技術を失っていたはずだ。 だから、ここにあるアルターは、もっと以前に作られた物だということになる。

 

「こんな何もない場所に、なんでアルターを作ったんだろう・・・」 口に出してつぶやいてみる。 ここには何もない。ここは、とても静かでのどかな場所だ。

「のどかな場所?」 自分の考えたことに何か引っかかるものを見つけて、私は辺りを見回す。 静かな村だ。とても穏やかで、のんびりと時間が過ぎていく。

「生命力にあふれたアルビーズの森と、その森の近くにある静かで穏やかな場所」 考え込む私の隣りで、賢者さんは怪訝そうな顔をしている。

「モラたちがどこから来たのかはわからない。でも、モラたちの故郷がアルビーズのように生命にあふれた場所だったとしたら、この村って、もしかして・・・」 私は、古代モラ族がこの場所から洞窟を通って森へ出掛けて行くところを想像した。

古代モラ族が、豊かな森の近くに作った、のんびり過ごすための場所。 その場所へ来るために作ったアルター

古代モラ族たちは、ゆっくりと時間をすごすために、アルターでこの場所を訪れていたのではないだろうか。古代モラ族の別荘地。それが、この村の由来なのでは。

「エルガディンとビスク。2つの勢力に2度の迫害を受けたモラ族は、ご先祖様の別荘地に逃げ込んでいるというわけ?」 クウェルクさんの家の前で、賢者さんは周りを見回しながら言う。

アルターを使えないエルガディンやビスクは、ここに来るためにはアルビーズを通らなければならないですよね。あの森には、スプリガンがいる。ガルム回廊からアルビーズに入って、スプリガンたちの中を進んでこなければ、この村には入れない」 私は、あの醜悪な亜人の姿を思い浮かべた。

埋められた財宝や、隠された入り口を守っているスプリガンという名前の妖精。 もちろんそれは、偶然なのかもしれない。 たまたま森に住んでいた亜人が、ヌブールの村への障壁になっているだけなのかも。

だけど、老人のような姿をしたあの亜人は、力を失い戦うすべをもたない今のモラ族を守っているのではないかと私には思えてきた。 この静かな村を守っているのは、森に住むスプリガンたちなのかも知れない。