[ウィッチブレードのひとりごと]
彼女が連れて行ってくれたのは、川に面した断崖絶壁の上だった。 まわりよりも一段高いそのがけの上には、石造りの階段が建っていた。 石造りの階段は、ゆるく弧を描きながら空中に向かって伸びており、 途中で途切れている。 その先には、かつて何かの建物があったのではないかと思わせた。 私はこの場所に来たことがあった。 どうしてこんなところに階段が建っているのか不思議に思ったことを 覚えている。
ここに昔、エルアン人の都があったんだ。 彼女はそう言うと、階段の先の何も無い空中を指差した。 エルアン人? 聞きなれない言葉を聞いて、私はたずねた。 彼女によると、エルアン人は昔、ダイアロス全域に繁栄していた人々 なのだそうだ。 でも、今はもう滅んでしまって一人も残っていないらしい。 彼女はそう言うと、階段の先をぼんやりと見つめている。 彼女の目には失われてしまった建物が見えているのだろうか? その姿を見ていると、自分がそのエルアン人の末裔だと、 彼女が言い出しそうな気がした。
私は階段の先端に立ち、がけの下をのぞきこんでみる。 はるか下のほうに川の流れが見える。 川の両岸には半ば崩れ落ちた石造りの壁や柱が広い範囲に建てられている。 あの壁や柱は建物の土台なのだろうか? 視線を右に移すと、がけの斜面には石造りの砦が建っている。 たそがれ砦といわれている建物だ。 今はモンスターの住み家になっているが、昔は建物の一部だったのかも しれない。 そうだとすれば、かなり大きな建物がここに建っていたことになる。 私は目を閉じ、その様子を思い描いてみた。 川をまたぎ、がけの斜面を覆いながら高くそびえたつ巨大な塔。 それは確かに都と呼ぶにふさわしいように思えた。
つづく