[カザヒシのメモ帳]
ひとまず座学は一区切りになった。基礎的なこと、というのは終わったらしい。 十二日間戦争や各地の宗教の話などは、町の人からも聞いたことがあり、知っていることも多かった。 でもエルアン人と文明、古代モラ族や古代エルガディンの話などは珍しかった。 なによりいくら先生でも、古代の文明などに関しては、わからないことも多いようだ。
勉強自体が嫌いなわけではないけれど……今はとりあえず、走りたい。 数日に及ぶ座学ですっかり体が固まったような感覚だ。 先生が座学を切り上げたのは、私がそろそろ限界だと気付いたからだろうか?
初めてのフィールドワーク、先生の助手としての仕事を、ガルム回廊に選んだ。 広すぎず、遺跡らしきものもなく、近づかなければ、特に危険なモンスターもいない。 以前タルタロッサを狩る知り合いにつき合ったおかげで、イクシオンは友好的だ。 もっとも戦闘はほとんどできない私はタルタロッサを倒したわけではないんだけど。
つまり比較的安全で、言ってしまえば調査すべきものが少なそうな場所、ガルム回廊に決めた。 自分の中の小さな疑問を解き明かす、と言えば大げさだが、一応そういう理由もあった。
イプス峡谷からこの地に来たが、犬や鹿がいる程度で、襲ってくるようなモンスターもいない。 西の端から入ったので、まっすぐ東へ進んだあたりで、縄張りの見張りらしきコボルトが目に入った。 コボルトの巣穴があることは知っていたが、今回の目的はモンスターの生態調査ではない。
コボルトの脇を走り抜け、目的地に到着した。風が気持ちいい。 私の今回の疑問はこのガルム回廊の橋だ。と言っても、今は崩れていて渡れないが。 橋は崩れているけど、以前橋の向こうまでいったことがある。 橋の向こうは、ガルム回廊では珍しい虎の生息地で、小さな洞窟もあった。
けど、それだけだった。 洞窟はすぐに行き止まりになっていたし、虎がいる以外に何かあるわけではなかった。 どこにも道は続いていなかった。 だったら、なぜ?
橋はかなり大きく立派だし、こんな高い崖に橋を架けるには相応の労力が必要だったはず。 少なくともこの場所には、それだけのことをする価値があるか、昔はあったということになる。 崩れているまま放置されているところを見ると、今はないのかもしれない。 だとしても、少なくとも今この場所に、橋を架けるほどの『何か』は見つからない。
一体この場所に何があったんだろう? どうしてこんなところに、橋を架けたんだろう?
ひとまず調査開始だ。周辺を見て回ることにする。