[ウィッチブレードのひとりごと]
このタルタロッサが普通のタルタロッサと大きく異なる点は、やっぱり手があることだろう。 このタルタロッサの手は、白くひらひらした袖のようなものから生えている。 手の付け根は、袖の中に隠れてよく見えない。 おそらく、この袖のようなものが翼に変化し、手は退化して無くなったのが普通のタルタロッサなのだろう。 私は袖の中をのぞいて、手の付け根を見てみたかった。 でも、そのためにはもっと近づかなくてはいけない。 タルタロッサに気づかれないように観察するのは、これくらいが限界だった。
また、普通のタルタロッサや鳥の足には、鱗のようなざらざらした質感があるのが普通だと思う。 でも、このタルタロッサの手には鱗があるようには見えなかった。 どちらかといえば、私たちホム種族の肌に似た、すべすべした質感を持っているようだった。 この点でも、このタルタロッサがより人間に近い生き物であることは明らかであるように思えた。
そして、握りこぶしくらいの大きさの光る玉を右手に持っているのが見えた。 なんだろう? タルタロッサの秘宝だろうか? 何に使うものなのか良くわからなかったが、このタルタロッサが高い知性を持っていることを表しているように感じられる。
私は物陰からタルタロッサを一通り観察すると、そのまま物陰に腰を下ろし、胸ポケットから手帳を取り出した。 見たこと考えたことは、できるだけ早いうちにメモしておかないと忘れてしまう。 私は観察したことを次々と書きとめていった。 今まで見たこと考えたことをメモするうち、このタルタロッサには何か新しい名前が必要なのではないかと思えてきた。 この生き物をタルタロッサと呼ぶには人っぽい特徴がありすぎるのだ。 私はしばらく考えたあと、タルーマンと手帳に書いてみた。 何度か口に出してみる。 タルーマン。 それはこの生き物にふさわしい名前に思えた。
そのとき突然後ろから声をかけられた。 私がびっくりして振り返ると、そこにはイクシオン・ステーキを手にしたタルーマンが立っていた。