[カザヒシのメモ帳]
ラル・ファク教と言えば、やはり中央エリアのラスレオ大聖堂は外せない。 今回の件とは無関係に図書館の本が気になるところだけど、今は我慢して神官たちの話を聞いてみる。
イルミナ様はイルミナ城でノア・ストーンの制御に忙しく、普通の人では会うこともできないが、 街の人たちにも支持されているミスト様は、普段この場所にいる。 私のようなただの旅人であっても、丁寧に話をしてくれるというのは、こちらとしてはありがたい。
ビスク人の故郷であるドラキア帝国において、ラル・ファク教は古くから信仰されており、 ドラキアの皇帝もまた、熱心な信者であるそうだ。 皇帝は強大な力を持つ秘石、即ちノア・ストーンを手に入れ、帝国周辺の国を平和裏に統合し、 素晴らしき神の愛を教えることが目的だ、と語ってくれた。
こんなに優しそうな人でも、やはりラル・ファク教徒であることに変わりはないようで、 この島の住人達を「忌まわしき神に惑わされている未開の民」と言った。 そういう風に教えられ育ったのなら仕方のないことなのかもしれないが、 それでも私はやはりこの宗教にいいイメージを持てなかった。 会ったこともない見ず知らずの人を、問答無用で差別するようなことはしたくない。
強大な力を手に入れて、それで平和裏に統合するなんてことが、簡単にできるだろうか? ノア・ストーンの圧倒的な力があれば、確かに戦争を止めることはできるかも知れない。 でも、圧倒的な力であることを一度見せつける必要があるとしたら、その時何人の犠牲者が出るのだろう? ノア・ストーンの力をドラキアが独占することができたとしても、 周辺諸国が力を合わせてその力を奪おうとしない保障はあるのだろうか? 大きな力というものは、結局争いの種を生みだすことになるのではないだろうか? このダイアロスでさえ、ビスクを恨むエルガディンが今も復讐の時に備えているというのに。
八年前、ビスクがかつてエルガディンの首都であったこの場所に攻め込んだ際、 エルガディンはただ祭りの準備をしていただけだったそうだ。 そして話し合いも何もなく、ビスク軍はただ攻撃を始めたのだという。
結局のところ、ドラキア帝国はノア・ストーンの力を手に入れたいだけにしか聞こえない。 素晴らしき神の愛とやらを教えるつもりなら、 なぜエルガディンの民と話し合いをしようとしなかったのか? ラル・ファクの神を信じていないものは、何人殺してもいいのだろうか? 殺された当時のエルガディン人達は、神の愛を知る機会を持つことさえ許されなかったのだろうか?
『信じる者は救われる』なんていうけど『信じない者は殺す』のだろうか? それじゃあまるで、『神様』じゃなくて『独裁者様』だ。