[カザヒシのメモ帳]
『ラル・ファク、イル・ファッシーナ』
ビスクでは、もう聞き慣れた挨拶だ。ビスクで暮らすのに、この言葉を聞かない日はないだろう。 私はビスクの街を走りながら、出会う人たちに話を聞いてみた。
イルミナ城の前に立っていたガードの女性が教えてくれたのは、この言葉の意味だった。
ラル・ファクとは、我らの神の名。 イル は、永遠を意味する古語。 ファッシーナ は、神の御国を表しています。
神の御国よ永遠なれ、という意味なのですよ。
先生の授業で習った通り、ラル・ファクは神の名だ。続きの意味は聞いていなかったので、初耳だった。
はるか昔、穢れた地を清めるために、破壊神が降臨。 全ての都市を踏み潰し、人々を海へ放り投げたという。 全土を無に帰した破壊神は変化し、平和の神となる。それが、ラル・ファクと呼ばれる女神。 地上に埋めた種が人となり、ドラキア帝国の祖になったと言い伝えられている。
先生の授業でこの話を聞いてから、私はどうにもこの神様を信じる気にはなれなかった。 元は破壊神という肩書のせいか、勝手なイメージが付いているのかもしれないけど…… 今までいろいろな本を読んできたからなのか、例えば、この話に続きがあるとしたら。
「繁栄した人類は地上を穢し始め、 そして平和の神は再び破壊の神として降臨し、再び地上を無に帰した……」
こんな風に思えてならない。 だから、以前からあまりこの神様を信じたいとは思わなかった。 今は平和の神とはいっても、元破壊の神だった。 壊すものがないから、平和の神になっただけなのではないか。 そして壊すものができたなら、この神様がまた破壊神に戻らないという保証はあるのだろうか……
なんてことを、ビスクの人の前で言えるはずもないのだけど。