[元銃弾販売員Ctanaの日記]
「宝探しに行かない?」 そう言ったのは鍛冶屋さんだ。 いつものミトヤのオープンカフェ。 私は、滝を眺めながら、椅子に座って考えごとをしていた。
「掘るのは私がするから、出てくるガーディアンを倒して欲しいの」 鎧を着込んでリュックを背負い、手には金色のツルハシ。 いつもの危険地帯に掘りに行くときのスタイルだ。
このダイアロスには、あちこちに宝箱が埋まっている。 モンスターの中には、古びた地図を持っているのがときどき居て、倒すと手に入ることがある。 手に入れた古びた地図はそのままでは読めないのだけど、解読して読めるようにすれば、地図をたよりに宝の場所を探すことができる。 それは知っているけど、実際に宝探しに行ったことは、私はまだない。 興味があったので、もちろんついて行くことにした。
箱舟遺跡を出て、エルビン渓谷を歩いて行く。 古代遺跡を左手に見ながら牛たちの間を抜け、崖をまわりこんで高台に出る。 鍛冶屋さんの他に、同行者がもう1人居た。 “読み手”と呼ばれる人だ。地図をたよりに、宝の埋まっている場所を探し当てる役割の人。彼女が居なければ、地図があってもその地図の示す場所がわからない。
シルクのワンピースにフェザーシューズ。装飾品は耳に着けたイチゴのイヤリングだけという軽装だ。街を歩く格好のまま、ちょっと散歩に出てきたという印象。これから宝を守るガーディアンと戦う姿には見えない。
まあ、彼女の仕事は、地図の示す場所を探し当てることと、出てきた宝箱を開けること。 戦わないのだから、鎧を着込む必要はないわけだ。 地図を片手にすたすた歩いて行く彼女のあとを、私と鍛冶屋さんは急ぎ足でついて行った。
大きなニワトリたちが歩き回る高台を突っ切って、読み手さんは真っすぐ歩いて行く。 エルビン渓谷の北東方面に向かっている。 この先は、切り立った崖だらけの山岳地帯だなーと思っていると、彼女が突然立ち止まった。
「近いです。この辺りですね」 そこは、何もないただの平原。 こんなところに宝物が埋まっているのかと思うくらい、なんということもない野原の真ん中だ。 彼女はくるくると周りを見回し、何度か少しずつ歩きながら地図を見つめ、ほどなくこちらを向いてにっこり笑った。
「ここです。掘ってください」 と、かかとで地面をコツコツ叩く。 ほんとに何もない場所だ。普通なら、こんな場所を掘ってみようなんて思わないだろう。 こんななんでもない場所に埋まっているんだなと、私は少し驚いた。
鍛冶屋さんがツルハシを手に彼女の元へ向かう。私は戦いにそなえて闇から魔物を呼び出した。 読み手さんは、ちょこちょこと小走りで遠くに避難する。
「掘るよー」 と声をかけてから鍛冶屋さんかツルハシを振り下ろすと、突然、バエルが1匹あらわれた。 エルビン渓谷に生息していないはずのバエル。なぜこの地域に目玉の化け物が居るの??? 私は、エルビンにバエルが居ることに驚いてしばらくただ眺めていた。 鍛冶屋さんは、ツルハシから棍棒に持ち替えて、バエルを殴っている。
「おーーい。手伝ってよーーー」 と鍛冶屋さんに言われて、あわてて魔物をバエルにけしかける。
それにしても、どうしてこんなところにバエルが居るのだろう。 そして、突然あらわれたように見えたけど、これはいったいどういう仕掛けなんだろう。 目の前でバエルと戦う一人と一匹をほったらかして、私は腕を組んで考え込んでいた。