[ウィッチブレードのひとりごと]
私が発表会の案内を見つけたのは、エルビン村から帰ってきたときのことだった。 案内は西銀脇の掲示板に貼りだしてあった。 西銀の掲示板は家に一番近いので、私はここをよく利用していた。 ちょうど夕暮れ時で、西銀前はいつものように人であふれている。
たぶんこの案内はビスク中の掲示板に貼りだされているんだろう。 案内をぼんやりと見つめながら私はそう思った。 どうやら思っていたより大掛かりな発表会みたいだ。 きっと発表会には大勢の人がやってくるに違いない。 私も発表しないかと会長に声をかけられたけど、断ってよかった。 それにまだぜんぜんまとまってないし・・・。
私はなんとなくほっとしながら、案内の内容を詳しく見ようと掲示板に顔を近づけた。 そのとき、突然何かが背中にぶつかってきた。 あっと思うと同時に後ろで男の人の声がする。 「おっと、ごめんよ!」 掲示板に両手をついたまま後ろを振り返ると、黒っぽい服を着たコグニートの男の人がテオ・サート広場のほうに走っていくのが見えた。
まったくもう! こんな人ごみの中を走るなんて何を考えてるんだろう? 私は男の人が走っていったほうをにらんだ。 掲示板から手を離し何気なく目を落とすと、ウエストバッグの口が開いて中のものが見えている。 あれ?閉め忘れてたかな? 私はウエストバッグの口を閉めようと手をかけた。
そのとき、ウエストバッグの口が開いているのではなく側面が切れていて、そこから中のものが見えていることに気がついた。 その切り口は何か鋭利な刃物で切られたかのように滑らかだ。 私はあわてて中のものを確認した。 無い。 入れておいたはずの財布が無くなっている。 しまった!やられた! 私はコグニートの男が走っていったほうに目をやったが、もういるはずもない。
何てことだろう。 巾着切りに財布をすられるなんてレンジャー失格だ。 周囲の気配に気がつかなかったのは、長旅で疲れていたせいだろうか? 私は発表会の案内を見る気が全く無くなってしまい、そのまま家に帰るのだった。
つづく